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「マスケット銃士のどんちゃん騒ぎ、行進、戦闘そして傷病兵の嘆きが旋律によって模倣され、バッカスに捧げられる。1673年、H. ビーバー、3台のバイオリン、4台のビオル、2台のビオローネ、および1台のチェンバロによる弦楽合奏団」という副題が付いている。 ビーバーは生涯の大半をザルツブルグ大司教の宮廷で過ごした。最初は執事の身分であったが、1676年には音楽監督に出世した。ビーバーの息子、カール・ハインリッヒは、ザルツブルグ宮廷でW.A.モーツアルトの父親レオポルドの上司であった。Battaliaでは、銃声と酔っぱらった兵士が、「コル・レーニョ」 (弓の木部で弦をたたく)およびピチカート、そしてさらにビオローネ(ダブルベース)の一風変わった奏法「マルシュ」(弦の間に紙を挟んで弓でたたき、軍隊のドラムを模倣する)などの進歩的技法を用いて弦楽のみで模倣される。 Battalia は傷病兵の嘆きで終わるが、これは当時としては非常にまれな悲劇的エンディングである。 ビーバーの作品で一番有名な「Rosary Sonatas」(またはMystery Sonata)でも「スコルダチューラ」 (変則的調弦)と称されるさらに別の新手法が展開され、さもなければ演奏不可能なパートを弾きこなせるようにすることで異なる響きと和音効果を与えている。その結果、このソナタにはありきたりのバロック・ソナタとは非常に異なる響きがある。 「これが本当にバロック音楽なのか?」と言うのが、Battalia を初めて聴いたときの私の反応だった。曲全体の斬新な響きに加え、特に第2楽節は300年前に書かれた音楽というよりも20世紀の無調音楽に近かったからだ。この CD にはより陽気な作品である Sonata violino solo representativeも入っている。この曲では鳥や動物、そして人間の営みがバイオリン独奏と、通奏低音のみによって巧みに表現されている。楽節の前にドイツ語で題名を述べるものとそうでないものとがあるので、何を表現した音楽なのか当ててみるのも楽しいかもしれない。 Battalia のサンプルクリップは Amazon にある。 3つめのトラック Die Liederliche Gesellschaft Von Allerley Humor (Allegro) が、バロック無調音楽である。 これは実のところ酔っぱらった兵士達が、ビーバーの故郷であるボヘミアの民謡をてんでんばらばらに歌う様を表現したものである。
ここに収録された12のソナタの内、特に注目されるのは「トランペット、バイオリン、2つのビオラ、チェロ、および小型パイプオルガンのためのソナタ第10番ト短調」である。この音階でもっとも特徴的な変ロの音は、 バルブを持たないナチュラルトランペットでは 演奏不能な音なのである。これに相当する音は実はロと変ロの間にある。この演奏不能音をどのようにさばくかが、演奏者の腕の見せ所である。ビーバーは、友人であり同僚でもあるPavel Josef Vejvanovskyの作品から、並はずれた音階のトランペットソナタのアイデアを得たようである(下参照)。 Sonatae tam aris, quam aulis servientes のサンプルクリップは Alapage にある。 変ロの音は、ソナタ第10番の最初の部分で特徴的に跳躍する音として聴きとれる。
ライナーノートには何も書かれていないが、トラック25の"Sonata a 4"が、ト短調トランペットソナタである。Gunar Letzbour 率いるArs Antiquaは、ナチュラルトランペットを使用している。この録音を例えばHanssler Classics (98905)から出されている、近代トランペットの音色と聴き比べると、ナチュラルトランペットの純粋で澄んだ音が実感できるであろう。 |
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