In memory of glorious voice
アラン・ファスト(カウンターテナー)
[1954年3月27日〜1995年5月、モントリオール、カナダ]

経歴
「そしてカナダは、アラン・ファストの格調高い声にも恵まれたが、彼の経歴は早すぎた死によって
悲劇的にも短いものに終わってしまった」 ---ダニエル・テイラー、2002年

故アラン・ファストは、ウェスタン・オンタリオ大学卒業後、米国でウェイバリー・コンソートと共に数年間活動し、1980年代後半にカナダに戻った。1986年、ファストはベルギー王立オペラが主催する国際オペラコンクールで優勝した。16才だったダニエル・テイラーが彼から個人レッスンを受けたのはこの頃である。1988年には、彼の最初で最後のソロレコーディングとなったブクステフーデのアルト・カンタータ集をマギル・コレギュウム・ムジカムと共に録音した。また同年、指揮者のジョシュア・リフキンの元でバッハのカンタータシリーズの録音にも参加した。

ファストはラジオ・カナダおよびCBCのために、数多くのリサイタルおよびアンサンブルプログラムに出演し、北米ツアーも行った。1992年からはマギル大学でフルタイムで声楽を教えるようになった。また彼はマリー・シーラ(現在はグエルフ大学の教授)と共に、前出のマギル・コレギュウム・ムジカムのディレクターも務めた。

ファストは、1994年5月29日から6月5日にかけてマギル大学で催された「Historical Performance Academy」に指導者の1人として参加したが、同年夏に開催されたスタッフコンサートでは歌うことができない状態であった。ファストは翌1995年の5月に亡くなった。享年41才。メールでインタビューした全ての関係者からは、1人の例外もなく彼のあまりにも早すぎた死を惜しむ声が聞かれた。


アラン・ファストの思い出と、彼のすばらしい声に対する賞賛を書き送ってくださった次の皆様に感謝致します。

マリー・シーラ教授(グェルフ大学)

ハンク・ノックス教授(マギル大学)

バレリー・キンスロー様(マギル大学)

ジュリアンヌ・バード教授 (ラトガーズ大学 )

ジェニファ・レーン様(スタンフォード大学)

アランファストの貴重な写真を寄贈してくださったマイケル・ジェフィー様(ウェイバリー・コンソート)に特別な謝意を表します。



ウェイバリー・コンソート(1982年撮影)
[上から下、左から右]

アラン・ファスト(カウンターテナー)

ナサニエル・ワトソン(バリトン)、ジュリアンヌ・バード(ソプラノ)
ジョン・オランド(テナー)、カート・リチャーズ(バス)

ケイ・ジェフィー(副指揮、撥弦楽器、管楽器)
マイケル・ジェフィー(指揮、撥弦楽器)

デニス・ゴッドバーン(管楽器)
シェリル・ベンズマン(メゾソプラノ)

ロザマンド・モーレイ(弓奏楽器)


ディスコグラフィー&サンプルクリップ
サンプルクリップの長さは全て60秒前後です。圧縮率は56bps (44kHz、ステレオ)で、各ファイルサイズは450KB程度です。サーバーの容量を超えたため、容量の大きい別のフリーサーバーに保管してあります。
Infoアイコンをクリックするとより詳しい情報が見られます(外部リンク)。


Buxtehude: Alto Cantatas and Sonatas
McGill Records 750031-2 [1988年]

作曲家:ディートリヒ・ブクステフーデ
演奏者:アラン・ファスト(アルト・ソロ)、マギル・コレギュウム・ムジカム(マリー・シーラ指揮)

1 全地よ、主に向かって喜びの叫びをあげよ (BuxWV 64) 8:49
2 Wenn ich, Herr Jesu, habe dich (BuxWV 107) 11:29
3 イエスはわが喜び (BuxWV 59) 8:30
4 Sonata Op. 2, No. 5 (BuxWV 263) 11:30
5 Sonata for Viola da Gamba (BuxWV 267) 7:57
6 Sonata Op. 2, No. 7 (BuxWV 265) 8:58
7 Gestreuet mit Blumen (BuxWV 118) 6:02

合計
63:15

この録音で聴くアラン・ファストの声は格調高い。古楽アンサンブルであるマギル・コレギュウム・ムジカムの音色はなめらかであり、ピリオド楽器が陥りがちなきめの粗さがない。これでエコーがもう少し少なければ、申し分のない録音である。添付のブックレットには各トラックに関する詳しい解説をマリー・シーラが書いている。歌詞も訳つきで掲載されており、もちろん2カ国語を公用語とするカナダらしく全て英語と仏語のバイリンガルである。

ブクステフーデはアルトのためのソロ・カンタータをあまり残していないが、このCDに入っているカンタータは全て実際にアルトのために書かれたものである。ファストの歌唱スタイルで気づくのは、頭声から胸声に移行するときのなめらかさである(例えば BuxWV 59)。ブクステフーデの作品番号についてはMusic and Musicians のサイト(仏語)が詳しい。

最後のトラックBuxWv 118はリューベック市長の娘の結婚式のために書かれた、ブクステフーデの作品としては珍しい世俗カンタータである。添付の解説によれば、ブクステフーデの世俗カンタータはわずか10にすぎないのに対し、宗教カンタータは112、そのうちおよそ4分の1がソロ・カンタータで、アルトのためのものはこのCDにおさめられているBuxWV 64、107および59の3つのみである。

ここで実際の演奏に使用されたスコアは、出版された楽譜だけでなく、スウェーデンのウプサラ大学図書館に保管されているマニュスクリプトも参照して準備された。非常に正統派で学術的アプローチと言える。レコーディングの参加者が全て大学関係者であることを考えると、当然なのかもしれないが。

6 Favorite Cantatas
Cantatas BWV 147, 80, 8, 140, 51 & 78

Decca L'Oiseau-Lyre 455706 (2 CDs) [1985, 1986, 1988*]

作曲家:ヨハン・セバスチャン・バッハ
演奏者:バッハ・アンサンブル、ジェーン・ブライデン、ジュリアンヌ・バード、ドゥルー・ミンター、アラン・ファスト、ジェフリー・トーマス、フランク・ケリー、ジャン・オパラック、指揮ジョシュア・リフキン

*ファストが録音に参加した年
アランファストは以下のソロ、ならびにデュエットを歌っている。
CD 1-21 レチタティーヴォ Zwar Fuhlt mein schwaches Herz
「Liebster Gott, wann werd ich sterben」 BWV 8 より
CD 2-16 アリア Wir eilen mit schwachen, doch emsigen Schritten
「Jesu, der du meine Steele」 BWV 78 より (ジュリアンヌ・バードとのデュエット)

ジョシュア・リフキンは「各パート毎に歌手1人理論」の主張者である。この概念は未だに論争の的であるが、この録音がその理論に従って行われたおかげで、貴重なアラン・ファストの声がはっきりと聞き取れることは非常にありがたい。L'Oiseau-Lyre の音は非常にクリアで良質である。ファストの声質は非常に複雑で微妙な色合いに満ちている。2枚組のCD中で短いレチタティーヴォと、ソプラノとのデュエットしか歌っていないのは残念である。どちらのトラックも非常にすばらしいだけに、その思いはいっそう強くなる。

Actus Tragicus
Cantatas BWV 106, 131, 99, 56, 82 & 158

Double Decca 458087 (2 CDs) [1985-1988]

作曲家:ヨハン・セバスチャン・バッハ
演奏者:バッハ・アンサンブル、アン・モノイオス、ジュリアンヌ・バード、ローリー・モナハン、スティーブン・リッカルズ、アラン・ファスト、ダグラス・スティーブンス、エドムンド・ブラウンレス、フランク・ケリー、ウィリアム・ハイト、ジャン・オパラック、指揮ジョシュア・リフキン

*ファストが録音に参加した年
アランファストは以下のソロ、ならびにデュエットを歌っている。
CD 1-16 レチタティーヴォ "Nun, der von Ewigket geschloßne Bund"
CD 1-17 アリア "Wenn des Kreuzes Bitterkeite"
"Was Gott tut, das ist wohlgetan" BWV 99 より (ジュリアンヌ・バードとのデュエット)

Allan Fast in Bach-Cantatas site
お問い合わせはこちらまで:
http://oakweb.ca/harmony/fast/fast-j.html