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記事をご提供下さったY.K.さんに感謝いたします。
(FM Fan 1994年9月号掲載)
Jochen Kowalski
ヨッヘン・コヴァルスキー
声は男性アルトだけど、女性の役はやるつもりはありません*

やっぱり世紀末になると摩訶不思議な現象が起こるのだ。すばらしくハンサムなれっきとした男性なのに、歌うと突然オンナの声になるという、世にも不思議な男性アルト。それがヨッヘン・コヴァルスキーだ。数年前にヘンデルの「ジュスティーノ」のLD(ドリ一ムライフ)を初めて見た時は、わが目と耳を疑ったものだ。今や欧米ではひっぱりだこの大人気歌手だか、さすがに新しいもの好きの日本の聴衆は目が早い。フォルクスオーパーで来日した彼の楽屋には、サインを求めるファンの長蛇の列ができていた。インタビューできたのは「こうもり」のオルロフスキーを演じ終わった直後の舞台裏だった。

実は今でもローエングリンを歌うのが夢なんです

――あのオルロフスキーのエキゾチックなケープをまとったハデな衣装も変わった演出も、あなたが考えたものではないですか?

「ほとんどそうです。あの役柄はマイケル・ジャクソンやデヴィット・ボウイなんかを意識しました。オルロフスキーは現代的な役柄なんです。いまでもお金の使い道に困って退屈している人が世界中どこにでもいるでしょう。彼はだれも友達がいなくて、心を打ち明けられるのは召使のイワンだけしかいない。彼にとってイワンは乳母のようなものなんです」

――なるほど。それはユニークな解釈ですね。ところで、あなたのレパートリーはバロック・オペラが中心ですが、かつてはカストラートが歌っていて、現代では女性が歌っている役ですね。それを男性が歌うわけだから、かなり屈折してるけど、あなたは舞台でとても男っばく演じておられますね。

「だってボクは男なんですよ。ボクは性転換してるわけじゃないんです。この前日本に来た時(93年5月)テレビで女性が男の役をやっていたけど、あれは全然気に入らなかったなあ(たぶん宝塚のことだと思う)」

――あんなふうにはなりたくない?

「あれはイヤです。ジャック・レモンとトニー・カーチスがやる女役は好きだけど(映画「お熱いのはお好き」だと思う)、ボクは女性役はやりたくありません」

――それはすごく残念。ケルビーノやオクタヴィアンをやってほしかったんですが。

「ダメです、あれは。高過ぎますからね、ボクの声には。それにオーケストラがうるさ過ぎる。だからズボン投でできるのは、オルロフスキー役ただ1つです」

――その特殊な声ですが、変声期になっても高い声が出ていたそうですね。

「変声期は15か16歳でしたが、話す声は変わったけど、歌う声だけは変声期がなかったんです。だから16歳の時、クリスマス劇をボーイソプラノでやったんですよ。なにしろベルリン郊外の小さな村の出身でほかを知らないから、自分の声が特殊だなんて思いもしませんでした。両親が音楽好きだったので、家には古いレコードがたくさんあって、いつもまねして歌っていたんです。だから小さい時から歌手になるのが夢で、楽譜も読めないし音楽教育も受けてなかったけど、音楽大学を受験しました。でも3回も落とされてしまったんです、彼には才能がないからって」

――最初はテノールだったんでしょう?きっと声が合わなかったんでしょうね。

「そうなんです。でも自分は『ローエングリン』を歌いたかったんですよ(笑)」

――歌手はみなローエングリンを歌いたがる。

「実はボク、いまでもローエングリンを歌いたいんですよ(笑)」
歌は下半身が勝負---腰から下で歌うんです

――ところで歌い方がちょっと特殊ですね。腰で歌うというか、足をふんぱった姿勢で。

「そうなんです。まさに地に足がついていないと歌えない。足に力を入れて踏ん張って(と立ち上がってやって見せてくれる)。だからボクにとって靴がものすごく大事(ハデなブーツをはいていた)。歌うという行為はまさにセックス的な要素がありますからね」

――おや、それはまたどーいう意味ですか?

「つまり、腰から下で歌うんですよ」

――はあ、なるはど。下半身を使うということですね。

「だからセックスがなくては歌は歌えません。まさにマリア・カラスがそうでしたよね。彼女は歌うことで燃焼しつくしたのです」

――つまり体をはって歌うということですか。

「そう、全身を使って声を出すんですよ」

――そういラ歌い方はクプファーさんと一緒に研究したのですか?先輩いませんものね。

「クプファー夫人にすべてを習いました、2週間だけシュワルツコップのもとで講習を受けたことがあったけど、ボクにとっては全然よくなかったんです(と突然のどをつめてシュワルツコップの歌い方のまねを始める)。それに歌う時下のアゴを下げろと、彼女に頭を押さえつけられたんです。とにかくひどい思いをしました。おまけに受講料が高くてね。まだお金があまりなかった時期なので(笑)。とにかくテクニック的には彼女から何も得るものがありませんでした」

――ヴンダーリッヒがお好きだそうですね。

「彼は私のアイドルです。彼の発声はすごく自然でしょう。心から訴える声で、頭で計算した声じゃない。シュワルツコップの声は一音一音計算されつくした声でしょう?」

――デビューから10年経ちましたが、声に変化はありましたか?

「ええたしかに。ボリュームが大きくなったし、音域がすごく広がったと思います。だから昔の録音を聴くとガッカリしますから、ほとんど自分のレコードは聴きません。録音した後でそれを聴かないといけない時が自分の最もいやな時です。舞台は大好きですけどね。だからレコード聴いてくれる人より舞台を聴きに来てくれる人の方が大好きです」

――今度は9月にウィーン国立歌劇場と来日ですね。クライバーが指揮するといいけど。

「ああ!そんなことになったらどんなにいいでしょう。彼は私の一番好きな指揮者ですから。でも、もしかしてクライバーが私の歌を嫌いだったらどうしよう……」

――その声なら大丈夫。きっと好きですよ。

[インタビュー・文・石戸谷結子]
プロフィール

1954年旧東ベルリン郊外の生まれ。ベルリン国立歌劇場の裏方として働いた後、テノールとしてベルリン音楽大学で学ぶ。 演出家クプファー夫人のマリアンネ・クプファーに見いだされ男性アルトに転向。83年からコーミッシュ・オーパーのメンバーになり現在に至る。

84年クプファー演出の「ジュスティーノ」でデビューを飾る。89年ロイヤル・オペラで「オルフェオとエウリデーチェ」でデビューし大評判になる。 以後「こうもり」のオルロフスキー、「ジュリアス・シーザー」の題名役、「真夏の夜の身」のオベロン、「ポントの王ミトリダーテ」などのレパートリーで 世界の一流歌劇に次々とデビュー。93年はザルツブルグ音楽祭で「ポッペアの戴冠」を歌った。94年ウィーン国立劇場来日公演でも「こうもり」 のオルロフスキーを歌う予定。趣味はお芝居や映画でクロサワの「七人の侍」が好き。まだ独身。
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