――ところで歌い方がちょっと特殊ですね。腰で歌うというか、足をふんぱった姿勢で。
「そうなんです。まさに地に足がついていないと歌えない。足に力を入れて踏ん張って(と立ち上がってやって見せてくれる)。だからボクにとって靴がものすごく大事(ハデなブーツをはいていた)。歌うという行為はまさにセックス的な要素がありますからね」
――おや、それはまたどーいう意味ですか?
「つまり、腰から下で歌うんですよ」
――はあ、なるはど。下半身を使うということですね。
「だからセックスがなくては歌は歌えません。まさにマリア・カラスがそうでしたよね。彼女は歌うことで燃焼しつくしたのです」
――つまり体をはって歌うということですか。
「そう、全身を使って声を出すんですよ」
――そういラ歌い方はクプファーさんと一緒に研究したのですか?先輩いませんものね。
「クプファー夫人にすべてを習いました、2週間だけシュワルツコップのもとで講習を受けたことがあったけど、ボクにとっては全然よくなかったんです(と突然のどをつめてシュワルツコップの歌い方のまねを始める)。それに歌う時下のアゴを下げろと、彼女に頭を押さえつけられたんです。とにかくひどい思いをしました。おまけに受講料が高くてね。まだお金があまりなかった時期なので(笑)。とにかくテクニック的には彼女から何も得るものがありませんでした」
――ヴンダーリッヒがお好きだそうですね。
「彼は私のアイドルです。彼の発声はすごく自然でしょう。心から訴える声で、頭で計算した声じゃない。シュワルツコップの声は一音一音計算されつくした声でしょう?」
――デビューから10年経ちましたが、声に変化はありましたか?
「ええたしかに。ボリュームが大きくなったし、音域がすごく広がったと思います。だから昔の録音を聴くとガッカリしますから、ほとんど自分のレコードは聴きません。録音した後でそれを聴かないといけない時が自分の最もいやな時です。舞台は大好きですけどね。だからレコード聴いてくれる人より舞台を聴きに来てくれる人の方が大好きです」
――今度は9月にウィーン国立歌劇場と来日ですね。クライバーが指揮するといいけど。
「ああ!そんなことになったらどんなにいいでしょう。彼は私の一番好きな指揮者ですから。でも、もしかしてクライバーが私の歌を嫌いだったらどうしよう……」
――その声なら大丈夫。きっと好きですよ。
[インタビュー・文・石戸谷結子]